ボンボンショコラ「ONとOFF」

毎年ショコラを作る時、テーマを定めるが、それは前年を振り返る行為であり、同時にその年の意気込みを込めるような感覚になる。

2022年は、飲食店で働き始め、その過酷さに潰れてしまいそうな気持になることが多くあった。食への興味と好奇心だけでは、どうにも乗り越えられそうにないと思いながらも、今は飲食業何たるかを知ろうと試みている。

「食と農」から「食とビジネス」への思考、環境のシフト。大きな変化のあった2022年を振り返り、今できるものを作りたいと試みた今回のボンボンショコラ制作だった。

ボンボンショコラ、一粒一粒

まずは今年の一粒一粒の背景を綴っていく。今回は6種類のボンボンをひと箱に詰めた。

半球型のモールドを使ったものが3種、四角いガナッシュをコーティングして転写シートやストラクチャーシートを上につけたものが3種。大切な方と分けて食べる方も多いため、一辺2.5㎝、高さ1㎝と一般的なものよりも少し大きめに作っている。

Caramel au Miel

ブラックチョコレートにカカオバターを塗り、ぐるぐると円を描くようなデザイン。宇宙を思わせる印象に。

昨年の夏、黒田養蜂園という素敵な養蜂園を訪れる機会があった。

「養蜂園訪問記」はこちら

様々な蜂蜜がある中で、今回は「林檎の蜂蜜」を選ぶことにした。キャラメルの甘くほろ苦い風味に甘酸っぱい林檎の香りが合うのではないかと想像しながら。

外側のコーティングはかなり薄くし、中のキャラメルはできる限り柔らかく。モールドを使ったボンボンならではの「パリ、トロ」という食感を目指した。

その攻めた仕上がりによって、配送時に崩れてしまったという報告も受けた。手渡しするわけではないショコラ制作。安全に届ける方法を模索すべきだと反省している。

Thé

ボンボンショコラを制作し始めた当初から、変わらず作り続けているアールグレイの一粒。

ベルガモットの華やかな香りがチョコレートの香りと共に広がるように。一時はミルクチョコレートと合わせることもあったが、ダークなチョコレートの中に存在している方がしっくりくる。

身近な人々(母やパートナー)にも人気の一粒で、作らない選択肢はなかった。

今年も変わらず「HUMPSTEAD TEA」のものを使用。水筒に入れて持ち歩くことも多い、日々の生活に欠かせないブランドだ。

オーガニックなうえにバイオダイナミック農法を採用しており、ティーバッグはコンポスタブルな(コンポストできる)のが嬉しい。

Citron

時期になると国産のレモンがスーパーでも手に入るようになるが、直売所に行くと近隣で栽培されたレモンを見ることもしばしば。美味しそうなレモンを見つけては皮をすりおろして果汁を絞り、「レモネード液」(砂糖とレモン果汁&皮を混ぜて保存しているもの)に追加している。足し続けること早3年目。足す度に発酵してプシュッと音を立てる。発酵具合によって味わいが変わるのもいい。

今回は「璃の香」という品種の宇都宮産レモンを使った。

レモンにしてはサイズも大きく、果汁も多い。すりおろした皮の苦味とともに果汁をたっぷりガナッシュに加え、レモンらしい酸味のある仕上がりに。ジンを最後に加え、すっきりとした味わい。ほんのり木のような香りが口に残るのはジンの仕業だ。

Praline et Cardamome

ヘーゼルナッツプラリネとカルダモンの組み合わせ。プラリネの層はミルクチョコレートとフィユティーヌを合わせ、サクサクとした食感。カルダモンはダークチョコレートに甘い香りを纏わせて。

冬の時期には毎日のようにチャイを作って飲んでいた。その時の気分によってスパイスを変え、スパイシーにしたり、蜂蜜を香らせたりと楽しむのだが、必ず加わるのはカルダモン。すっきりとした爽やかな香りが気に入っている。

ボンボンショコラの構想をする時、参照する本がいくつかある。その一つが『スパイス百科 ~起源から効能、利用法まで~』。今年はどんなスパイスをショコラに合わせようかな、と想像を膨らませながらページをめくっていると、自然と作りたい味が決まる。昨年はスターアニスだったが、今回はカルダモンを選ぶことにした。

Jasmin et Ananas

「ボンボンショコラのお茶シリーズ」を作ってほしいと言われたこともあるが、私自身馴染み深い茶とチョコレートを合わせるのが好きだ。日々の暮らしの中で、お茶はONな自分をOFFにしてくれる、ほっと一息深呼吸させてくれる、そんな存在。

紅茶はもちろん、ほうじ茶、蕎麦茶、玄米茶、番茶、台湾茶、カモミール、ルイボス…水筒に入れるお茶は気分によってそのバリエーションの中から選び、楽しんでいる。その中の一つがジャスミン茶だ。

ジャスミンのボンボンショコラを作ったのは昨年が初めてで、その時「華やかな香り好き!」という声をいくつも聞いたため、今年も作ってみることにした。

今回は何かジャスミンと連想されるものを加えたいと思った。フルーツを加えたい、というところまでたどり着き、アプリコットかパイナップルで迷い、より酸味のあるパイナップルに決めた。

Soja Noir

大学卒業後、農的暮らしをしたいと思って帰省し、畑や田んぼで農作物を作っていた。そのころのことは #百姓見習記 と題していくつか綴っているが、現在の職場で働くことを決めてから実家を離れることになった。その時に耕した土地、生きものが豊かになりつつある土地を、現在は私に代わって母が引き継ぎ管理し、多様な植物を栽培している。

そこで栽培された黒豆がとびきり美味しい。栽培した品種は黒豆茶やきな粉にするのに向いている品種だと聞いたが、正月に母が甘く煮たものも美味しかった。

その美味しさを共有したいという気持ち、そして母への敬意も込めて黒豆のショコラを考えた。

黒豆茶を作る時と同様にクリームに黒豆の香りをつけてガナッシュを作ったのだが、せっかくの豆をそのまま味わってほしいと思い、ローストした豆を砕いてプラリネと合わせた層も作り、2層仕立てにした。

もう少し細かく砕いていれば口の中に残らずより美味しくできたと改善点も残るが、母は「黒豆を炒ったものをそのままポリポリする美味しさが含まれていた」と感想をくれた。

包装

6個入りの箱はとても小さく、リボンをかけると不格好になってしまう。

今回は紙紐で巻き、プロジェクト名である「pâtisserie Lys」を印字したシールを貼ることにした。ラッピングまでを考えるのもまた、楽しい作業である。

開けると最低限の説明を記した紙が顔を出し、その下に発車ベルの「ONとOFF」が写された写真が出てくるという仕掛け。

これは2022年の1月にJR氏家駅で撮影したもの。

当初は意図したわけではないが、背景の左側が白く整然としているのに対し、右側はフェンスやトイレの壁、その奥にはロータリーなどが混在し、雑然としている。

前面に写るベルのONとOFFは、左右の背景の対称性によって際立っているようにも見える。どちらの背景がONでどちらがOFFかも解釈次第だ。

何の説明もなく写真を添えたのは、受けとり手の自由な発想に任せたいという気持ちからだった。

テーマ「ONとOFF」

息を吸ったら吐かなければならないし、呼吸は吸い続けることも吐き続けることもできない。

フルタイムで仕事をするようになって、ONとOFFを意識するようになった。

ONがあってOFFが存在する。OFFがあるからONでいられる。

ついONのスイッチを押し続けようとする自分にOFFのスイッチの場所を教えたり、OFFでいる時のメンタリティをONにも反映させてバランスを保とうと試みたり。

そうやって試行錯誤しながらウェルビーイングを模索している最中だ。

この6粒の中には私の中にあるONとOFFが散りばめられている。

どちらか一方とは言い切れず、どちらもが同等に存在する。

もしかすると、ONとOFFは対極にあるものではなくて隣り合わせ、あるいはスイッチを押す必要もないくらい近いところにあるかもしれない。

この箱の一粒一粒を口にしながら、それぞれのON /OFFに思いを巡らしていただけたなら幸いである。

2023-03-13|タグ:
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