案内された先には椎茸の原木が美しく整然と並んでいた。
原木に使うのはコナラとクヌギ。木を切り、日向(畑の中)で椎茸の菌を埋め込む。それをまた林の木陰に戻し、原木を組んで椎茸が出てくるのを待つ。通常、菌を入れてから1年半後収穫ができるようになる。
一度菌がその木に回ってしまえば、湿度と気温の条件がそろったころ、原木のあらゆるところから椎茸が出てきて収穫できるという。この一連の作業を手作業で行ったというから驚きだ。
「いつもはもっと椎茸が出ているのだけれど、年々春の雨が減っていて。」
そう語る吉村潔さんの姿が印象的だった。管理されたハウスで行う菌床栽培とは異なり、雨による湿度が必要な原木椎茸栽培にとって、気候の変化を直に受けているようだった。
椎茸にはいくつかの規格があり、白く傘が閉じているものは天白冬菇(てんぱくどんこ)、雨に濡れて茶色に染まった冬菇が茶花冬菇(ちゃばなどんこ)、傘が開いているものが香信(こうしん)などと呼ばれる。
吉村さんが栽培しているのは昔ながらの「乾椎茸(ホシシイタケ)」にするための品種。もちろん生椎茸と同様に食すことが可能だが、干すことで旨味や香り、栄養価が増幅する。
元来、椎茸というのは乾椎茸が主流であった。現在は乾椎茸の需要が減少しており、吉村さんが椎茸栽培を始めた頃と比べてその価格は半分にまで下がっているそうだ。
「日本人は乾椎茸を食べなくなっています。だから値段も下がってしまう。中国にはまだ食べる文化が残っているから、中国人のお客さんのニーズの方があります。」
「食べなくなっている」という現状、食文化の変化による生産者への影響の大きさ。需要がなければ価値も下がり、どんなに素晴らしいものも消えてしまうのだと危機感を覚えた。
そして、郷土料理や昔ながらの料理を、食材も含めて伝承していくことの重要性を、あまりにも美しい椎茸を手に抱えながら改めて認識したのだった。
(2023年3月9日訪問)
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