なんでもない朝、それがいい【きまぐれエッセイ】

朝起きると既に日の光がカーテンの隙間から差し込んでいる。

小さく伸びをして、カーテンを開ける。

太陽の光とともに新たな一日の始まりを認識する。

前日の疲れが抜けていないわけではないけれど、フレッシュな空気を吸うと心も改まる気がする。

今日はいつもより出勤が1時間遅い。14時間労働が当たり前の飲食店勤務において、この1時間はなんとも貴重な時間だ。

さて、今日はどんな風にして時間を使おうか。そう考える前にお腹がグゥとなって、朝ごはんは何を作ろうかといつの間にか考えているのが常なのだが。

冷蔵庫には……

卵、牛乳……作り置きの茸のギリシャ風と、苺ジャム。

冷凍してあるパンもあるが今日は少しふんわりホットケーキでもどうだろうか。

そう思いながら幼少期によく読んでもらった『しろくまちゃんのほっとけーき』(1972, こぐま社)のイラストを思い出す。

卵を割って、砂糖を加え、牛乳を入れてぐるぐる。小麦粉を加えてさっとかき混ぜ、同時にフライパンを熱する。

生地をすくって、バターがちょうどいいくらいに溶けたフライパンへ。

「ぽたあん、どろどろ、ぴちぴちぴち、ぶつぶつ、やけたかな、まあだまだ、しゅっ、ぺたん、ふくふく、くんくん、ぽいっ、はいできあがり」(『しろくまちゃんのほっとけーき』より)

あっという間に6枚のホットケーキができた。

一人3枚ずつ皿にのせてクロスを敷いたテーブルへ。

コーヒーは何を淹れようか。我が家では2種類のコーヒー豆を瓶にあけてあり、どちらかをその日の気分で選ぶようにしている。

今日はケニアのウォッシュド、オレンジやレーズンのような香りのする方にしよう。

ブレーカーが落ちてしまうから、オーブンや電気ケトルが同時についていないことを確認して、ミルのスイッチをON。あっという間に挽かれた豆からは、もうそれだけで幸せな香りが漂っている。

ペーパーフィルターをセットし、豆を入れ、ゆっくりとコーヒーを淹れていく。

それから茸のギリシャ風を瓶からお皿に盛る。

椎茸、しめじ、エノキ、ヒラタケ。その時によって使う種類が異なるが複数種類の茸をコリアンダーシードやマスタードシードと一緒に炒め、ヴィネガーと塩、少量の砂糖、胡椒で味を調えたものを瓶に詰めて作り置きするのにハマっている。

冷蔵庫からもらった「くず苺」(ジャム用として売られる小さな苺)で作った粒のごろごろとしたジャムを出して、さあいよいよ朝ごはんの時間。

ただ朝日を浴びながら、美味しいものを口にして過ごす朝の時間。

そのなんでもない時間を、なんでもないように過ごせる喜びといったら。

朝日を美しいと感じられず、むしろ眩しすぎてなかなか目が開けられない日が多かった春。それを乗り越え、心を健康な状態に保つ方法を再認識する近頃。

失いかけて改めて気づく、自分だけが知っているような、なんでもない時間。何にも代えがたい大切な時間の存在がどれだけ必要だったのだろう。

益子陶器市で会った一人がこんなことを言っていた。

「美しいものを与える人は、美しいものに触れて、常に美しいものを吸収してないとね」

この日の朝も、ホットケーキを焼いて美味しいコーヒーを淹れながら、なんでもない朝の時間を尊く思っていたのだった。

2023-05-23|タグ:
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