ならいごとはじめました【漆芸見習記 #0】

いつかできるようになりたいと思うようになったのは、器が好きになってしばらく経った頃だろうか。

中学生の頃から益子陶器市に家族で行き、好みの陶器を探すのは至福の時であった。

その器は形あるもの、壊れることももちろんあり、漠然と「金継ぎ」できるようになりたいと思うようになっていた。

飲食店で働いていた頃、大切な、貴重なお皿を手にすることが多かった。繊細なものも壊れてしまうことがあり、自分で割ってしまったことも何度もあった。割ってしまうと本当に悔しくてテンションがガクンと下がる。

その頃に「いつか必ず自分で金継ぎできるようになりたい!」と強い想いが芽生えた。

そして先日ついに、プロの手ほどきを受けながら少しずつ一から学べる教室に通い始めた。

完全初心者の私は、知らないことばかり。

教室に通って感じたことや知ったこと、進み具合などをブログに記録していきたいと思う。

はじめのうちは写真を撮って記録するぞ!と意気込んでいたのだが、手を使って集中するため、まず写真を撮る余裕は皆無。

それに、写真に残さなくとも目と耳と手でそれらが鮮明に体に残る。だからその残っているものをこうして文字として書き写すことで復習のような意味も込め、手を使ったその動作を言葉というものを介して表現できたのならと思っている。

この連載を「漆芸見習記」と名付けたが、教室に通い説明を受ける中で「金継ぎ」というのは漆芸(しつげい)の一部であるということを知った。

金継ぎをきっかけとして、いつか自身が思うままに漆を使った作品を作れるようになりたいという強い想いを込めて、少々大袈裟だが「漆芸見習」としている。

金継ぎされた器でイメージされるのは、皿であれば割れた部分が細い金色の線で繋がれた姿であろう。

目に映る「金」は表面の言わばお化粧であり、それが金であるというだけ。だから金ではなく銀など他の金属粉でも良いし、色漆で描いてもいい。

工房に飾ってあった先輩受講生の作品の中には、こんなものもあった。

陶器のコップの取っ手部分が壊れていたというその作品は、漆で再生された取っ手に和紙が巻かれ、その上からコップと同じようなエメラルドグリーンに近い美しい色の漆で彩られていた。

それはただの修繕ではなく、作品になっていた。

ただただ壊れたものを接着させ、美しく生まれ変わらせるものだと思っていた私は、漆で繋ぐ際に自分の思うままに創造性を働かせてよいのだというその自由さにより胸が高鳴った。

金継ぎを始めるにあたり新たに迎えた、『金継ぎの技法書』(工藤かおる著、2022)にはこのように書かれている。

金継ぎとは、壊れた陶磁器を漆で接着し金銀粉で加飾して仕上げる日本独自の修理方法である。

漆による器の修理の最も古い例は縄文時代にまで遡るが、今のような金継ぎの形になったのは室町時代の頃からであり、背景には茶の湯文化の隆盛があった。

壊れた跡を「隠す」のではなく、逆に際立たせ、それを器の景色として愉しむ感性は、不完全なものにも美を見出す「侘び茶」の精神から結実された、日本人の美学といえるのではないだろうか。

工藤かおる著(2022)『金継ぎの技術書』p.6

壊れたものを少しずつ少しずつ直し、また新たな息の吹きかかった作品として生まれ変わらせる。

そのゆっくりとしたプロセスと、自分の手仕事によってより価値を高める(より大切なものにする)というその行為が私自身の性格にも合っていて心地良い。

我が家には「いいものを長く使うこと」という無言の教えのようなものがある。

何十年来使い続けている両親の日用道具が身近にあり、「これはパパが二十歳くらいの時に買ったコーヒーミルとドリップポットなんだよ」という要領で教育されながら育った私は、幼い頃から長く使えばそれだけ「カッコイイ」となんとなく思うようになっていた。

父は趣味で革細工をしており、古いブランド品の革をリメイクして自分好みの鞄や財布をつくったり、革以外にも洋服に加工を施して自分好みにしたりしている。

父のように自分の思うままに何かを修復したり作り替えたりする一種の「技」を何年もの時間をかけて習得していくのだと思うだけで楽しみである。

これから漆・金継ぎの教室に通う中で「ああ綺麗だな」「これ面白いな」と思った瞬間を言葉にし、「長く使い続けるための技」を身につける様を記録していけたらと思う。

興味のある方は読み見守っていただけたら幸いである。

(サムネイルの写真は先日コーヒーショップに行った際に出てきたカップ。)

続く。

2024-02-01|タグ:
関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

※コメントはブログ内で公開されます。直接メッセージや感想を送りたい方はこちら(CONTACT)からお送りください。