ベンチで話した美しいお婆様【きまぐれエッセイ】

ベンチに、一人のお婆様が座っていた

キョロキョロ、キョロキョロ

何かを探しているのだろうか

隣に座ってみる

微笑むと、すぐに会話がはじまった

「わたくしね、空を見上げるのが好きなんです」

その一言に、この人のことをもっと知りたいと思った

「もう90ですからね、ここまで来るのに疲れてしまいました」

孫よりも年下の私に向かってとにかく丁寧に話してくれる

それから

空や周りの山が見渡せる部屋に、一人で暮らしていること

ファッションが好きで、若い人の着ているものを見るのが好きなこと

旅が好きで20か国以上行ったことがあること

ヨーロッパが好きで、特にスイスの山が忘れられないこと

孫の面倒を見るために海外に行けなくなる前、最後の旅行はフランスのシャトー巡りだったこと

今は心臓が弱くてマスクをしなければならない生活がつらいこと

感染症の影響で孫は結婚式を挙げられなかったこと

ひ孫はもうすぐ生まれそうなこと

私よりも何倍を体力を使いながら

汗をかきながら、でも生き生きと

たくさんのことを話してくれた

「みんな周りは80くらいでいなくなってしまいますけれど、何故だか10年ももう長く生きています」

そう言う彼女の視線には寂しさは皆無だった

足も心臓も悪くなってもなお、身の回りのことを全て一人でこなしていると聞いたとき、思わず

「すごいです」

と口にしてしまった

すると彼女から

「自由なんですよ」

という言葉が返ってきた

「毎日、美しい空を見上げて、美味しいものを食べて、好きな時に寝るんです」

彼女は杖がないと歩くのが大変だし、すぐに胸が苦しくなる

でも一人で好きなように暮らしている

娘や孫と仲良くしながらも、無駄に頼らないのだという

「わたくしは難しく考えないんです。ケセラセラですから」

長生きの秘訣はたくさんあるのだろうけれど

彼女の口から出てきた

「自由」と「ケセラセラ」が

その笑顔と元気につながっているのかもしれない

休日の昼下がり、久しぶりに心から「美しい」と思える人に出会った気がした

2022-08-30|タグ:
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