今までの人生で一番通ったカレー屋さんがある。
オーナーは日本人だがスタッフは皆ネパール人という、雰囲気の良いお店。
スタッフ間で話されるネパール語が心地よい。
数年前までは結構な頻度で食べていた。
店内で食べたり、テイクアウトしたり。カレーと大きなナンで500円、というのが学生のお財布に嬉しかった。
スパイスカレー屋さんは本当に数が多く、このお店はその中でも好んで通っていたところだった。
いろいろなお店で食べても、結局ここのカレーがおいしいと思ってしまう。
なんでだろう、と聞いてみると、「余計なものを入れないこと」だとスタッフの方は言う。他のお店のスタッフともよく話すのだそうだが、味の素や着色料を使うお店も少なくないという。
確かに、これは自分でシンプルに作った方がおいしいな、と思うお店もある。
そのお気に入りのお店に、先日久しぶりに行ってきた。
多分、2年ぶりくらい。
変わらない店内。
週末は混んでいることが多いけれど、その日は雨ということもあってお客さんは私以外に一人しかいなかった。
かなりお腹が空いていたから「ディナーのBセット」というのを注文。
ナン、サラダ、チキンティッカ、カレー2種類、ドリンク、デザートで1300円という、満足度の高いセットだ。
ドリンクは決まってマンゴーラッシーを頼む。
カレーはキーマとベジタブルを注文した。
しかし手元に運ばれてきたのは、チキンとキーマだった。
見た目では分からないから、食べてから気づいた。
オーマイガー!
本当はベジタブルが食べたかったのだけれど…
と心で叫びつつ、無駄にしたくないし、これはこれで美味しいし、いいか。
そう思いながら食べていると、ネパール人の彼が話しかけてきた。
彼 ずいぶん久しぶりですね。
私 え、覚えていらっしゃるんですか?
彼 はい、覚えてますよ。すごく久しぶりですよね。
私 はい。留学行ってて、ずっと来てませんでした。コロナだし、ちょっと心配してました。お店は変わりないですか?
彼 売上はコロナもなにも関係ないですね。ずっと同じ。お店にいるひとは減ったけど、テイクアウトがいっぱいだから。
私 そうですか、それはよかった。もう一人のスタッフの方もお変わりなく?
彼 背の高い人ですよね。彼は1月にネパールに帰りました。もう日本には帰ってこないかな。コロナがダウンしたら私もネパールに帰りたいんですよ。
私 あら、そうだったんですね。寂しいですね。ネパールに帰りたいのは、ご家族がいらっしゃるから?
彼 そうです。2歳の子どもがこんなにちっちゃくて。毎日電話してます。パパ、パパ、って最近はしゃべるんですよ。だから帰りたいんです。
それを聞いて、自分事のように寂しさを感じた。
それからも、彼が日本に来て6年になること、来たときは英語も日本語もわからなかったこと、日本に来る前はインドに10年、マレーシアに3年も住んでいたということ、その中でもやっぱりネパールが一番好きだということ、ネパールの山が大好きだということを教えてくれた。
お店にはスパイスがずらりと並んでいて、スパイスの話にもなる。
私 スパイス、多いですね。
彼 これ全部使いますよ。
私 スパイス好きなんですよ。まだまだですけど、カレーとかチャイとか家で作ります。インドだとカレーもチャイも、場所によって違うんでしょう?
彼 よく知っているねえ。北は甘くて、南は辛いよ。ネパールは北の料理に近いかな。
私 季節によってスパイスは変えるんですか?暑い時と涼しい時は、辛さが違う?
彼 スパイスは変えないね。唐辛子だけ、暑い時は少し少なくする。40度とかになったりするから辛すぎるとね。
私 へえ。チャイもたくさん飲むんですか?
彼 チャイは大体一日に2回は飲むよ。朝とお昼休憩の時。たくさん飲む家だと一日に5回も飲むっていう友達もいてね。
そんなことを話しながら、どこか懐かし気な、時折見せる寂しげな表情。
帰りたいのだろうな。
「子どもがこんなにちっちゃくて」と話していた笑顔が、印象的だった。
それはもう、子どもの成長する姿を近くで見たいに決まっている。
きっと彼は、今晩も、とびっきりの笑顔でお子さんと電話するのだろうな。
別れ際、私は「早くネパールに帰れるといいですね」としか言うことができなかった。
(2021年4月17日執筆)
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