金継ぎを習得すると心に決める前、パートナーが割り、捨てられずにとっておいた切子のピッチャー。
大学時代の友人からもらったもので、ドレッシングなど卓上で少量の液体を入れるのによく使っていた。
薄手のガラスである上に複雑な割れ方をしている。
少しずつ少しずつ直していき、取りかかり始めて8ヶ月ほどかけてようやく繕うことができた。
先生は「これまで直したガラスの中で一番薄い」と言いながら、それでもピッチャーとして「液体を入れて使う」という機能を再び持てるようにと繕い方を考えてくれた。
これは、お気に入りだった切子のミルクピッチャーが、表情を変え、生まれ変わるまでの記録。

目次
まずは下準備
まずはツルツルのガラスがくっつきやすくするために割れた断面をリューターで優しく傷をつけた。
そして表と裏両面にガラス用漆を広げる。
「好きなように描いて」と先生に言われるがまま、切子の窪んでいる部分を活かして波打つように漆を塗った。

写真では分かりにくいが、表面には茶色の漆を、裏面には塗った部分を区別できるように色が入った漆を使っている。
こちらが2週間後、乾いた様子。裏地に塗った緑の色漆も、乾くと色が落ち着いている。

金継ぎの基本、くっつけて、埋める
割れた部分に麦漆を塗りつけ、くっつける。
2週間経って漆が硬化してピッチャーとしての形を取り戻した。
少しはみ出した麦漆は、普段なら刃物で削るところだが、薄いガラスで割れる可能性があったためそのまま出っ張りは放置。

底に穴が空いているのがわかる。
ヒビも入っているため、和紙を貼ることで補強することになった。

穴を埋め、且つ和紙を貼る前の準備段階として表面に凹凸をつけるため、錆漆を広げた。

穴の部分は内側からラップを当てて形を整え、そのまま硬化。
和紙を貼って補強する
ザラザラした錆の上に米粉と漆で作った糊を少しずつ筆で塗りながら、そこへ千切った和紙をのせ、その上から糊を薄く広げる。

和紙は繊維を断ち切らないためにハサミできらず手でちぎると良い。

こんな調子で全ての面に和紙を貼って硬化させた。

波打つようにした部分はさすがに和紙をその通りに貼るのは難しく不規則になってしまったが、それはそれで味があると考えたい。
表面がザラザラしているのでトクサをあてて表面をならし、補強は完了。
内側も整えていく
まずは、ガラス用漆を内側に塗り広げる。

硬化後、筆で錆漆を広げ、麦漆の出っ張りを埋めるようにした。

トクサを使って錆漆の凹凸をなめらかに研ぐ。
(写真上: 研ぐ前、下: 研いだあと)

研ぎ終えたら、少し灯油で薄めた漆を錆に染み込ませるように塗る。
漆を重ねていく
あとは漆の塗膜を何度も重ねる。
外側も、



内側も。
どちらもある程度滑らかな塗膜ができるまで、塗り重ねる。


内側は白い色漆でシンプルに仕上げた。

和紙の風合いを活かした仕上げ
外側をどんな仕上げにするか、この工程にくるまで思い浮かばなかったが、いざ仕上げをしようという時、思い浮かんだのは雲のイメージだった。
銀粉を蒔いてその後に色漆でグラデーションになるよう、染めることにした。
まず、黒呂色漆を薄く広げる。
そしてティッシュで押さえて余計な漆を取り除く。
そこへ純銀粉を真綿で撒いていく。

和紙の風合いに銀が乗ることで、ガラスの器であるとはまるで思えない表情に一変した。
硬化させた後、青の色漆で描いていく。
青といっても、紫に近いものから緑がかったものまで様々だ。

先生は4種類の青色を出してくれたが、私は浅葱(アサギ)色を選ぶことにした。
ぽんぽん、とスポンジで好きなように色をのせて完成。


色漆をただ塗ったのとは違う、銀と色との重なりが味を出ている。

和紙を貼る直しは初めてだったので学ぶことの多い繕いだった。
少しこのまま愛でたのち、食卓で使いたいと思っている。
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